生理前のイライラはPMDD(月経前不快気分障害)?心と身体のケア方法を臨床心理士が解説

近年、PMS(月経前症候群)という言葉が浸透し、生理前の不調の原因や対処法がわかってきましたよね。それでもまだ認知度は低く、悩んでいる女性の方が多いと感じます。特に身体面よりもメンタル・精神面で悩んでいる女性はPMDDの可能性があるかもしれません。今回は、生理前にイライラしたり、抑うつ気分になりやすい女性に向けて、心の専門家である臨床心理士がPMDDのセルフチェックや対処法を紹介します。

監修者
いけや さき
臨床心理士
心理学系大学院修士課程修了後、精神科病院や心療内科クリニック、療育施設などに従事。 「よりカウンセリングとセルフケアを身近に」という思いから、2020年にフリーの臨床心理士としてオンラインプラットフォームや個人サイトを通してオンラインカウンセリングを開始。主に20~40代女性のカウンセリングを担当。現在は女性が生きやすい世の中を目指し、ライターとしても情報提供を行っている。

資格
臨床心理士、公認心理師、マインドフルネススペシャリスト

生理前のイライラ、PMDDかも?

生理前になるとイライラしたり、涙もろくなったり、肌荒れや身体のむくみなど、心や身体の不調を感じる女性は多いですよね。このような症状は「PMS(Premenstrual Syndrome):月経前症候群」として注目されていますが、もしかしたらPMDDの可能性もあるかもしれません。

PMDDとは、Premenstrual Dysphoric Disorderの略称で日本語では「月経前不快気分障害」といわれています。PMSの症状のなかでも、イライラや気分の落ち込みなど精神症状の方がメインとなる場合はPMDDの可能性が考えられるため、まずはPMSとPMDDの違いを理解していきましょう。

PMSとPMDDの違いは精神症状

PMSとPMDDの違いはどのようなところにあるのでしょうか?まずはそれぞれの違いを解説していきます。

PMS(月経前症候群)とは

PMSとは、月経の3~10日ほど前からメンタル面あるいは身体面に不調がみられる症状で、多くの場合は月経がはじまるとともに症状は落ち着きます。PMSのはっきりとした原因はわかっていませんが、女性ホルモン(「エストロゲン」と「プロゲステロン」)の変動が大きく関わっているようです。主な症状を以下にまとめてみました。

  • 精神症状
    抑うつ、イライラ、不安や混乱、情緒不安定、集中力の低下 など
  • 身体症状
    頭痛、関節痛や筋肉痛、乳房やお腹の張り、手足のむくみ、のぼせ、倦怠感 など

これらの症状が月経前に毎月現れ、月経開始とともに落ち着くのがPMSです。PMDDやうつ病ではないことも診断する際には確認が必要となります。

参考
月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|公益社団法人 日本産科婦人科学会
(2)月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome) – 日本産婦人科医会

PMDD(月経前不快気分障害)とは

PMDDとは、PMSのなかでも主にメンタルの不調が強くでている場合をいいます。メンタル不調の症状が日常生活に支障を来たしているような状態がPMDDです。

支障というのは、今まで出来ていたことができなくなったり、動作や判断力が鈍くなっている感覚や気分がなかなか晴れず、仕事や家事・育児等が思うようにできない状態を目安にするといいでしょう。

心理士である筆者が日頃カウンセリングをしていると「仕事には行けている」「家事はなんとかできている」というギリギリの状態を「まだ大丈夫」と捉えている女性を多く見かけます。頑張ろうとすることは素晴らしいですが、なんとか頑張っている状態はすでに心は限界を迎えていると捉える方が、適切な対処ができ回復も早いと感じます。

米国精神医学会が作成したDSM-5によれば、PMDDは抑うつ障害群に分類され、精神症状を主とします。以下に、生理数日前(1~2週間前)から見られる主な症状をまとめました。

  • 突然悲しくなる、涙もろくなる
  • イライラや怒りの気持ちが出現する
  • 絶望感や抑うつ、自己批判的な考えが出てくる
  • 不安や緊張が高まりを強く感じる

これらの症状に加え、「不眠や過眠など、睡眠関連の課題」「集中力や興味関心の低下」「乳房の張りや筋肉痛、関節痛などの身体症状」も出現するといわれています。

参考
心療・精神科:「月経前不快気分障害(PMDD)」専門外来 - 東京女子医科大学附属足立医療センター
月経前不快気分障害(PMDD) (げっけいまえふかいきぶんしょうがい)とは | 済生会
American Psychiatric Association 編, 日本語版監修 日本精神神経学会『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院, 2014

そのほかにも生理前ではなく、生理後に身体のだるさや不安を感じる女性もいます。その場合は、生理中は鉄分不足等による生理後症候群かもしれません。今後も自分らしく楽しく過ごせるように、不調を少しでも感じたら受診し、自分の心と身体のことを大事にしてみてくださいね。

PMDDセルフチェック

自分がPMSかPMDDかチェックしてみましょう。月経前1週間で以下の症状はありますか?

  • 自己否定の気持ちが強くなる
  • 憂鬱な気分でとても落ち込みやすい
  • 不安・緊張を感じやすい
  • 疲れやすいさや、だるさがある
  • 突然悲しくなったり、涙もろくなる
  • 普段は気にならないことにもイライラする
  • 興味関心の低下を感じる
  • 集中力の低下や考えがまとまらない
  • 食欲が増す
  • 乳房の張りや筋肉痛、関節痛などがある

5つ以上当てはまると、PMDDの可能性が高いといわれています。しかし、メンタル面よりも身体面の方が強く感じられる人はPMSかもしれません。まずはどちらの場合でも婦人科や心療内科を受診してみましょう。特にメンタル面の症状が強くみられる人は、婦人科と心療内科(精神科)を並行して受診されることをお勧めします。

参考
月経前症候群(PMS)/月経前不快気分障害(PMDD)チェック | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修
American Psychiatric Association 編, 日本語版監修 日本精神神経学会『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院, 2014

日常的にできる生理前のイライラ対処方法

セルフケアの選択肢の1つとして、病院受診以外にも日常生活でできることに取り組んでみましょう。日常生活でセルフケアを取り入れることは、長期的にも幸福度を高め、PMSやPMDD以外のことからも身を守ってくれます。それだけでなく、心のゆとりができて今よりも幸せを感じやすくなるでしょう。

日記や記録を書く

日記は身体面と精神面の両方にとって、自分の状態を客観的にみるための手立てとなります。
日記を書くことは、たとえ大きく印象に残るような出来事がなかったとしても、排卵前後の自分の調子や生活スタイルを把握できる方法です。また、月経周期や生理前の状態を記録に残すことで、病院で質問された場合も答えやすく、適切な診断を受けやすくなるでしょう。

内容は意識して長く書く必要はありません。心理士としておすすめは、出来事だけでなく「気持ちと身体の調子の数値化・言語化」も記すといいかなと感じます。たとえば数値化なら、10段階評価で今日はどれくらいかなどです。数字よりも楽しい記録の方がいい人は、顔のイラストやシールなどで記録を取ってもいいかもしれないですね。

数値化や言語化は認知行動療法といって、PMDDに効果的な心理療法のエッセンスも入っている方法なのでぜひ試してみてください。

深呼吸や瞑想に取り組む

日々の生活のなかで、交感神経と副交感神経のバランスをとることはPMSやPMDDだけでなく、あらゆるメンタル不調の予防にもつながります。副交感神経を優位にさせる深呼吸や瞑想は、数秒~数分で気軽に取り組めるので朝晩定期的に取り入れてみましょう。

深呼吸の方法(例)
「ゆっくり吸って、吸う時間以上にゆっくり息を吐く」を意識。
たとえば「1,2,3,4」で吸ったら「5,6,7,8,9,10」で息を吐くみたいなイメージがわかりやすいかもしれません。

最初は口呼吸でもいいですが、できれば鼻呼吸で深呼吸しましょう。鼻呼吸は適度な加湿を与えるだけでなく、口呼吸と比較して殺菌が体内に入りにくいです。また、鼻の奥は脳ともつながっているので適度な活性効果も得られます。

瞑想も呼吸を意識したり、「今ここ」を意識する手法であり、メンタル安定に効果的な方法です。昼休みに数秒~数分間ほど目を瞑るだけでも効果を実感できます。正しい方法はありますが、まずは「正しく」をがんばりすぎず、落ち着く時間を作るという気持ちで取り組んでみましょう。

できる範囲で食生活を改善する

特にPMDDはメンタル面が主症状ですが、メンタル不調は外部からのストレスだけが原因ではありません。健康な身体をつくることはPMSやPMDD予防・対策につながります。

女性は生理前に暴飲暴食になる経験をした人は多いと思いますが、これが生理前や生理中の不調の原因となっているかもしれません。意識できる範囲で栄養バランスを意識し、アルコールやカフェイン、塩分、油ものなどの摂取を控えるようにしましょう。

夏も冬も身体を温める

血行不良はPMSやPMDDを悪化させます。冷たいものや甘いものの取り過ぎには気をつけましょう。食べ物を意識するだけでなく、入浴や温活グッズを活用して身体を外側から温めることも取り入れてみてください。近年、温活グッズはデザイン性や機能性の高いものが増えています。自分に合うものを探してみてくださいね。

また、入浴は全身を温めてくれますが、身体の特定の部位で気になるところがある女性やいつも重い生理痛になる女性は「ホットタオル」「低温のカイロ」などを活用してみましょう。ついシャワー浴になってしまう人にもおすすめです。

さらに、ヨガやストレッチで身体をほぐしたり、食事も身体を温めてくれる生姜やシナモン、唐辛子などを取り入れてみましょう。外側と内側の両方からアプローチは、PMS・PMDD対策になります。

午前中のうちに散歩する

メンタル不調の原因の1つがセロトニン不足。食事からも補えますが、午前中の太陽が出ているうちに散歩することが効果的です。冬は日照時間が短いため普通に生活しているだけではセロトニンが不足しやすいといわれています。

曇りの日でも太陽はでているので、午前中のうちに10~15分程度散歩してみましょう。ただし、冬の朝は寒いので早起きを意識するよりも午前中くらいの気持ちで十分です。無理のない続けられる範囲でやっていきましょうね。

自分なりのリフレッシュ法を見つける

ここまで紹介した方法以外に「自分なりのリフレッシュ法」を見つけることは重要です。
ポイントは「自分なり」というところ。人は一人ひとり、性格も気質も価値観も環境も違います。「あの人が○○やってるから私も!」という心がけはステキですが、PMDDになりやすい人はストレスを抱えやすく、真面目な人や落ち込みやすい人が多いです。

人と比べたり、「みんながやってるからできるようにならないと!」と思わず、自分が楽しい・嬉しい・スッキリする・穏やかな気持ちなれる方法を見つけてくださいね。

女性は1ヶ月のサイクルと季節に合わせて柔軟に

女性はホルモンバランスもライフスタイルも男性以上に変化しやすいです。月経に伴って女性は性格や体調の変化が月4期に分類されているのを聞いたことのある女性もいるかもしれません。だからこそ、一定の状態を保てる方が少数派かもしれない…と感じます。

また東洋医学的にも、季節によって気持ちや体調に変化が生じることは自然とされています。夏と冬に同じ心身の状態ではいられないのです。自分の身体と心の調子を理解し、無理させすぎずメリハリをつけてあげる。PMSやPMDD対策としてだけでなく、日頃から自分を大切にして過ごしましょうね。

心理カウンセラー(臨床心理士・公認心理師)
医療・福祉施設勤務を経て、フリーのカウンセラー・ライターとして活動中。

“心と身体はつながっている”という考えのもと、女性たちが穏やかで自分らしいライフスタイルを手に入れるためのカウンセリングや情報提供しています。

わたし自身も外側と内側の両方の健康を意識し、運動を意識するほか、最近では漢方や薬膳、食生活に関する分野を勉強中です♪

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