心を穏やかにするヨガの智慧「ヤマ」の5つのこととは?

季節の変わり目や環境の変化があったときは、気持ちが不安定になりがちです。気持ちが落ち着く、ストレス発散になるという理由からヨーガを始めたという人も多いと思います。ヨガでは、苦悩から離れて自身の心の動きを安定させる教えがあります。教典「ヨーガ・スートラ」を参考に、ヨガの智慧をご紹介します。

ヨガは日常生活の悩みを解決してくれる?

人間関係や職場、家族のことなど、日常生活を送る上で悩みは尽きないものです。美味しいご飯を食べたり、友人をおしゃべりしたり、スポーツでストレスを発散したりすることで、一時的に悩みを忘れることはできます。

しかし、積もりに積もった悩みは心の中でこびりつき、何をしていても思い出してしまう、落ち込んでしまうことがあります。そうしたことから少しでも離れたいという理由でヨガを始めた、という人もいるのではないでしょうか。

呼吸や体の動きを意識しながら、アーサナ(ヨーガのポーズ)に集中していると、終わったあとに心が晴れやかになります。このように、マットの上にいるときの穏やかな心の状態を、日常生活でも維持できたらいいですよね。

ヨーガ・スートラ】 

1-2 ヨーガハ チッタ ヴルッティ ニローダハ


ヨーガとは、考えの動きを静かに収めることです。

ヨガの教典「ヨーガ・スートラ」では、「考えの動きを静かに収めることがヨガである」と説いています。日々私たちを苦しめる考えや悩みから離れる方法について、「ヨーガ・スートラ」の教えをヒントに読み解いていきましょう。

ヨーガの教え「ヨーガ・スートラ」から苦悩の原因を探ろう

一般的にヨガと聞くと、あらゆるポーズを取るアーサナを思い浮かべますが、それはヨガの一部分に過ぎません。ヨガのインストラクター資格を取得するときやヨガクラスでも触れることがあるヨガ哲学にこそ、ヨガのエッセンスが詰め込まれています。

その中でも、「ヨガとは何か?」について、195の短い詩でまとめているのが「ヨーガ・スートラ」です。「ヨーガ・スートラ」は、生きる目的や日々の実践方法などが端的にまとめられているヨガのガイドブックです。日々、変わる自分の考えや不安定な気持ちになったとき、どのように対処すればよいかについては「ヨーガ・スートラ」にヒントがあります。

「ヨーガ・スートラ」参考書籍

インテグラル・ヨーガ (パタンジャリのヨーガ・スートラ)

スワミ・サッチダーナンダ (著), 伊藤 久子 (翻訳)

 インテグラル・ヨーガ (パタンジャリのヨーガ・スートラ)

やさしく学ぶYOGA哲学 ヨーガスートラ

向井田みお

 やさしく学ぶYOGA哲学 ヨーガスートラ

解説ヨーガ・スートラ

佐保田 鶴治

 解説ヨーガ・スートラ

私たちを苦しめる悩みの原因とは?

ヨーガ・スートラ

2-3 アヴィッディヤー アスミター ラーガ・ドヴェーシャ アビニヴェーシャー パンチャ・クレーシャーハ

無知、自意識の高さ、欲望、嫌悪、死への恐れ、この5つが心を悩ませる苦悩の原因となる考えの動きです。

「ヨーガ・スートラ」では、悩みの原因は5つの考えから起こると説いています。

  • 相手の気持ちを考えずに言葉を発してしまう。
  • SNSで自分が食べているものや身につけているものを過剰に演出した投稿をしてしまう。
  • もっとお金が欲しい、素敵な洋服やアクセサリーを身につけたい。
  • いろいろ指図してくる上司が気に入らない。
  • 定期検診の結果が悪くて不安な日々を過ごしている。

日常生活の中で起こる悩みのことを思い出してみると、この5つの原因のどれかにあてはまるのではないでしょうか。

何気ない相手の言葉や行動が気になってしまうのも、それに反応してしまうのも、心が安定せずに周りに振り回されてしまうから。悩みの原因が理解できたら、あとはその原因を取り去るだけです。

生き方のガイドになる「ヨーガの八支則」

人は一人では生きることができません。生きる上で、自分以外の人と関わり、接することは避けられません。それゆえ、困難なことにぶつかり、苦悩することが日々起こります。その苦悩の原因と心身に起こる症状について「ヨーガ・スートラ」で説いていました。では、その苦悩の原因と症状を取り去るにはどうしたらよいのでしょうか。

アーサナに集中したあとのシャバ・アーサナ(屍のポーズ)で休んでいるときのような、心穏やかで何にも縛られない自由な状態を、日々の生活の中でも維持できたらいいですよね。「ヨーガ・スートラ」では、8つの教えに従うことで先ほどご紹介した5つの苦悩の原因を取り去ることができると説いています。その8つの教えが「八支則(アシュターンガヨーガ)」です。

  1. ヤマ:気を付けるべきこと
  2. ニヤマ:するべきこと
  3. アーサナ:姿勢
  4. プラーナヤーマ:呼吸法
  5. プラティヤハーラ:感覚を収める
  6. ダーラナ:集中する
  7. ディアーナ:瞑想する
  8. サマーディ:瞑想状態

この8つの方法を段階的に日常で意識し、行動することで、悩みに振り回されることなく、心穏やかに自由に暮らすことができる、と説いています。今回はその8つの中から、日常で気を付けるべきこと「ヤマ」にフォーカスしてご紹介します。

日常で慎むべき5つのこと「ヤマ」

相手の言動にイライラしてしまったり、悲しくなってしまったりすることがあります。それは、相手が自分の思う通りにならないから起こる心の現象です。相手を変えようとすればするほど、悩みは尽きることはありません。そして、相手を変えようすることほど、難しいことはありません。まずは、自分の言動を見つめて、正していくことから始めてみましょう。そこでお手本になるのが、八支則の一つ「ヤマ」です。

「ヤマ」は、八支則の初めに紹介されているように、日々の生活の中で気を付けるべき大事なことです。つい行なってしまうよくない習慣や癖、考え方は、すればするほど心に残っていきます。そういった行ないを少しずつ正して、ほどいていくのが「ヤマ」の教えです。日常で慎むべき5つのことである「ヤマ」の教えを言動の基準にし、今の自分はどういう状況なのかを客観的に見つめてみましょう。

1. アヒンサー:傷つけること

暴力を振るうことはもちろんのこと、言葉でも相手を傷つけていませんか?相手がいないからといって、影で悪口を言うのは控えましょう。

昨今、SNSの普及により、素性がわからない相手とのコミュニケーションが容易になりました。自分も相手も顔が見えない同士、正体が明かされることがない匿名の世界であっても、相手を傷つける言葉を発することは慎みましょう。

自分を傷つける言動もアヒンサーです。過度な飲食やダイエット、過剰な自己否定も自分を傷つける行為です。

2. サティア:嘘をつくこと

咄嗟の判断から、つい嘘をついてしまうこともあるでしょう。自分をよく見せたいという思いからついてしまう嘘もあります。一つの嘘をつくと、その嘘を誤魔化すためにさらに嘘をつかなければならなくなります。嘘に嘘を重ねていくと、何が本当だったのかがわからなくなってしまいます。そうしたことを避けるためにも、なるべく正直でいることを意識します。

逆に、何でも正直に伝えることが良いとはいえない場面もあります。その時は、何も言わない、という方法を取るのも一つの手段です。

3. アステーヤ:盗むこと

盗むのは、物だけではありません。例えば、遅刻や時間の約束を破ることは、相手の時間を盗んでいることと同じです。人と会う時間は、自分だけでなく相手の時間も使っています。特に、家族や親しい友人が相手だと、許してくれるだろうという心の緩みから、物や時間を盗んでしまうことがあります。

人の物を使ったり、借りたりするときには一言伝えることが大切です。そして、物だけでなく、時間や空間といった目に見えないものも、アステーヤの対象であることを理解しましょう。

4. ブラフマチャリア:規則正しい生活をすること

誰しも欲望を持っています。その欲があるから、生きるエネルギーにつながっています。しかし、欲望を思うがままにしておくと生活や自分の心身に支障をきたしてしまいます。食べ過ぎ、飲み過ぎ、眠り過ぎ、など過剰に欲望を発散することは避けるようにしましょう。健康に良いからと同じものばかり食べる、トレーニングをしすぎるといった偏った行動もよくありません。

欲望をなくすことはできませんが、ほどほどに欲を満たすことはできます。規則正しい生活を送ることも、無理をしない程度にほどほどにしておくのが長く続ける秘訣になります。

5. アパリグラハ:不要なものを抱え込まない

損をするよりも、得をしたいというのは正直な気持ちです。欲張って何でも抱え込んでいると、本当に大事なものを見失ってしまったり、身動きが取れなくなったりしてしまいます。

物事に執着して譲らない、相手が持っているものを欲しがることも同じです。必要以上に何でも抱え込むと、体も心も重くなり、縛られて不自由になります。長く使っていないものは人に譲ったり、手放してしまうのもよいでしょう。自分が考えているほど、本当に必要なものは多くはありません。人間関係も同様に、相手に執着しすぎることなく、程良い距離を保つようにしましょう。

ヨガの智慧で心のバランスを整えよう

心のバランスを崩してしまうのは、心を保つ軸がないからです。ヨガのバランスポーズでも、体幹をしっかり保っていればフラつくことなく真っ直ぐに立つことができます。心のバランスも同じです。その軸となるものとして参考になるのが「ヨーガ・スートラ」をはじめとした、ヨガの教えです。

今、自分が悩んでいることや苦しんでいることは、昔の人も同じような経験をしています。同じように悩み、苦しんでいたことをいかに取り除いて、穏やかなで自由な日々を手に入れることができるかを説いたのが「ヨーガ・スートラ」です。

すぐ目の前にある悩みや苦しみから逃れることは難しいかもしれませんが、今回ご紹介したヨガの智慧を参考にして、乱れた心のバランスを整えて、心穏やかに毎日を過ごしましょう。

フリープランナー兼エディター。
2020年3月にインド政府公認校認定ヨガ指導者養成講座ヨガ哲学コース修了。ヨガ哲学に魅せられて、日々カルマヨガに専念しています。
「ヨーガ・スートラ」や「バガヴァッド・ギーター」を参考に、哲学や瞑想の視点から毎日の生活が楽しくなるヒントを伝えていきます。
マイブームはスパイスカレー作りとジャパ瞑想。
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